サービス開発チームでデザイン思考を共有・実践する方法:エンジニアが担う役割
チームでデザイン思考を共有・実践することの重要性
サービス開発において、ユーザー中心のアプローチをチーム全体で共有し実践することは、プロダクトの成功確率を高める上で不可欠です。デザイン思考は、このユーザー中心のアプローチを体系的に行うための強力なフレームワークですが、その実践がデザイナーだけのものと思われたり、開発プロセスにうまく組み込めなかったりといった課題に直面することも少なくありません。特に、日々開発業務に追われるエンジニアにとって、デザイン思考の活動に積極的に関与し、チーム全体を巻き込むことは、一見ハードルが高いと感じられるかもしれません。
しかし、サービス開発はチームで行うものであり、ユーザーへの深い理解に基づいた共通認識は、手戻りを減らし、より良いプロダクトを迅速に開発するための基盤となります。エンジニアがデザイン思考のプロセスを理解し、チームメンバー(プロダクトマネージャー、デザイナー、マーケター、他のエンジニアなど)と協力して実践することで、全員がユーザー課題への共通認識を持ち、一体となって解決策を創造・実現できるようになります。本記事では、サービス開発チーム全体でデザイン思考を共有し、実践していくための具体的な方法と、エンジニアがそのプロセスでどのように貢献できるのかについて解説します。
非デザイナーを含むチームメンバーとの共通理解を深める
デザイン思考をチームで実践する上で最初のステップは、共通言語と共通理解を確立することです。デザイン思考の各ステージ(共感、定義、創造、プロトタイプ、テスト)やそこで用いられる手法(ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、アイデア発想、プロトタイピングなど)について、非デザイナーのメンバーも含めて基本的な知識と目的を共有します。
- 社内ワークショップの実施: デザイン思考の基礎や、チームでよく利用する手法に特化した مختصر(簡潔な)ワークショップを定期的に開催することが有効です。エンジニアがこうしたワークショップの企画や進行に協力することもできます。特定のツールの使い方や、ユーザーインタビューの進め方など、実践に直結する内容に焦点を当てます。
- 共通ドキュメントの整備: チーム内で共有するユーザー調査の結果、ペルソナ、課題定義などをまとめたドキュメントを整備し、アクセスしやすい場所に保管します。ConfluenceやNotionといったツールを活用し、いつでも誰でも参照できるようにすることで、共通認識の醸成を促進します。
- 用語集の作成: デザイン思考に関連する専門用語や、チーム内で頻繁に使う概念について簡単な用語集を作成します。これにより、コミュニケーションの際の誤解を防ぎ、スムーズな議論を可能にします。エンジニアは、技術的な視点から用語の意味や実現可能性について補足することで、より実践的な共通理解に貢献できます。
実践的な手法とエンジニアの貢献
チーム全体でデザイン思考を効果的に実践するためには、具体的な手法の選択と、それぞれの役割における貢献が重要です。
- ユーザーインタビューへの参加と視点の提供: エンジニアも積極的にユーザーインタビューに参加することを推奨します。ユーザーが抱える課題や、プロダクトへの反応を直接聞くことで、開発のモチベーション向上や、技術的な実現可能性を踏まえた上での示唆を得られます。インタビューで得られた知見を、技術的な制約や可能性と結びつけてチームにフィードバックすることは、エンジニアならではの重要な貢献です。
- プロトタイピングの多角化: プロトタイピングはアイデアを具体化し、ユーザーやチームからのフィードバックを得るための重要な手段です。UI/UXデザイナーが行う画面遷移やワイヤーフレームのプロトタイプだけでなく、エンジニアは技術的な実現性を検証するための「技術プロトタイプ」や、バックエンドの機能検証に特化したものを作成できます。Figma、Sketchといったデザインツールの使い方を学ぶことや、HTML/CSS、JavaScriptなどを用いてインタラクティブなプロトタイプを作成することも有効です。これにより、アイデアの実現性に関するリスクを早期に発見し、チーム全体の生産性を向上させます。
- アイデア発想ワークショップへの貢献: エンジニアは、技術的な知見やシステム全体の構造に関する理解に基づき、現実的かつ創造的なアイデアを発想する上で重要な役割を担います。ワークショップでは、単にアイデアを出すだけでなく、それぞれのアイデアの技術的な難易度や影響範囲について、その場でフィードバックを提供することで、議論の質を高めることができます。
忙しい開発スケジュールの中で実践するヒント
アジャイル開発のような高速な開発サイクルの中でデザイン思考を取り入れることは、時間管理の観点から課題となることがあります。しかし、デザイン思考の活動を開発プロセスに自然に組み込むことで、負担を軽減しつつ効果を最大化できます。
- スプリント計画への組み込み: ユーザーインタビューや簡単なプロトタイピング、ユーザーテストといったデザイン思考の活動を、スプリント計画の一部として明確に組み込みます。これにより、デザイン思考の活動が独立した特別なイベントではなく、日常の開発プロセスの一部として認識されます。
- ミニマルなデザイン思考サイクル: デザイン思考のプロセス全体を一度に実行するのではなく、特定のユーザー課題や機能開発に関連する部分だけを短期間で行う「ミニマルなデザイン思考サイクル」を回します。例えば、新しい機能開発の前に数日間の短い「共感・定義」フェーズを設け、その結果をスプリントに活かすといった方法です。
- ツールの活用による効率化: オンラインホワイトボードツール(Miro, Muralなど)やプロトタイピングツール、ユーザーテストツールなどを活用し、リモート環境でも効率的にデザイン思考の活動を行える環境を整備します。エンジニアは、こうしたツールの導入や活用に関する技術的なサポートを提供することも可能です。
チームにおけるデザイン思考浸透とエンジニアの役割
デザイン思考を一時的な取り組みで終わらせず、チームの文化として根付かせるためには、継続的な実践と改善が必要です。エンジニアは、このプロセスにおいて重要な貢献をすることができます。
- 成果の共有と可視化: デザイン思考の活動を通じて得られた知見(ユーザーの声、テスト結果、プロトタイプの評価など)や、それがプロダクト開発にどのように活かされたのかをチーム内外に積極的に共有します。具体的な改善事例やユーザーからの肯定的なフィードバックを示すことで、デザイン思考の価値を実感してもらい、活動へのモチベーションを高めます。エンジニアは、データ分析のスキルを活かしてユーザー行動の変化を数値で示すなど、定量的な視点から成果を可視化できます。
- フィードバック文化の醸成: チーム内で率直なフィードバックを行い、受け入れる文化を育てます。デザイン思考の活動中に生まれたアイデアやプロトタイプに対して、建設的なフィードバックを交わすことで、より洗練されたソリューションを生み出すことができます。エンジニアは、技術的な観点からのフィードバックを提供することで、実現性の高いアイデアの選択や改善を支援します。
- 継続的な学習と改善: デザイン思考の実践方法自体も、チームの特性や開発状況に合わせて継続的に改善していくことが重要です。定期的にチームで振り返りを行い、どのようなデザイン思考の活動が有効であったか、改善点はあるかなどを話し合います。
まとめ
デザイン思考はデザイナーだけのものではなく、サービス開発チーム全体で実践することでその真価を発揮します。特にエンジニアは、技術的な専門知識と開発プロセスへの深い理解を活かし、ユーザー理解の深化、プロトタイピングの質の向上、そしてチームメンバー間の共通理解の促進において重要な役割を担うことができます。
本記事で紹介したような具体的な手法やヒントを活用し、日々の開発業務の中にデザイン思考の視点を取り入れることで、チーム全体の創造性、生産性、そして何よりユーザーへ提供する価値を高めることができるでしょう。デザイン思考の実践を特別なイベントと捉えるのではなく、サービス開発をより良く進めるための自然な一部としてチームに根付かせていくことを目指してください。